INAHO
「家らしい家」へ
季節を追うごとに色を変える稲穂。浅緑から深緑、黄金色、やがて収穫されて艶のある白米へ。何千年も前から日本人の最も身近な食糧である米。デッキから眺める景色は稲穂の田園風景が広がる。
家には日本人のもっとも身近な木材、国産材を使用している。この木材もまた、年月を経て色を変える。古くなることで味わいを増す。わたしたちが忘れかけている本来の日本の「家らいし家」への再挑戦。
日本の伝統住宅には数寄屋と民家の2つの様式がある。数寄は詫び寂びを好み華奢で潔い造作を施し、民家は歴史の中で無骨で素朴な造作。数寄屋は茶室から始まり庶民の家まで浸透した。皮肉なことに現代住宅の工業製品による部材は、あえて言えば数寄屋風に向いている。一方、古民家再生の魅力も根強い。小屋組の太い曲がり梁は手作りでしかできない。デザインとしては、今や相入れない様式である。世界で進化してきたエンジニアリングウッドを使うことで、数寄屋と民家の間のデザインの可能性が見えてきた。無骨な大径材を直線的に使い、民家のように現しにし、数寄屋のように潔く。数寄屋と民家の融合を試みたデザインが懐かしさと新しさを与える。
「家らしい家」は庇の深い家。
日本の気候は温暖な地と言うよりも雨の国。
そして夏を旨とすることは古典にも書かれてきた。
この両者の命題をともに解決するのが庇の深さである。
日本の伝統家屋には共通する要素であり「家らしい家」を感じさせる。短い庇に馴染まされてきた目には、出し桁の庇は新鮮なデザインとして映る。
庇が深いことは伝統が教えてくれる貴重な解答のひとつ。
構造躯体が隠されたら民家ではない。
しかも化粧板を貼れば見栄えだけである。
反面、無骨で野暮になれば数寄屋ではない。
両者を達成するためには、何よりも躯体そのものの設計デザインが重要である。
サステナブルデザインは古びれないことではなく、古くなることで味わいを増すこと。
その意味での木材は径年美化を実現する適材である。
民家のように木材を「現し」、数寄屋のように潔いデザイン
民家流の小屋組の木材の現しも、無骨さをそぎ落とすことで数寄屋とのデザインの融合をはかる。
木組障子と華奢な紙障子を対峙させつつ組み合わせることで、家の中の風景も、家の中から見る外の景色も変わり、それぞれの表情が生まれる。
伝統的な民家の構造材と数奇屋に現される木使いこそが身に沁み心に残るデザインとなる。