500年前のモダンデザイン
禅に通じる考え方には、日本人は好感を持ちます。この心が寝殿造りから書院造りと続いてきた住まいの様式を、数寄屋造りに変えてゆく原動力にもなりました。数寄屋の代表である茶室が、「市中の山居」と言われるのもこのためです。
寝殿や書院のように格式高いづくりではなく、これらの伝統や贅沢を振り払って簡素なつくりを目指します。たとえ市中にあっても、まるで山奥に暮らしているような趣きを求めたのです。茶室の中には、世界を形成していると考えられる「木火土金水」があれば、それで良いとされています。
木材は茶室にはふんだんに使われています。そして炉には火が焚かれ、中の灰が土、釜が金、そして水があれば茶の湯を楽しむことができます。そして使われている木材も、選び抜かれた無節の上質材ではなく、面皮で節のある材を好んで選びます。まさに、山居の趣きを大事にしたのです。
それはつまり、数寄屋の対称である書院や寝殿造りが都会的であるということを意味しています。現代の感覚でいえば、都会のマンションが寝殿造りであれば、郊外に小さなログハウスを求めたようなものです。こうして数寄り屋はまさに田舎のつくりを目指していました。
しかし長い時間を経ると、すっかり感覚は逆転してしまいます。無駄をそぎ落とした数寄屋のデザインは、いかにもモダンで都会的なイメージとなり、書院づくりは、田舎に残された古民家ばかりです。もし下のような書院造りの空間を見かけた時」には、500年前の当時の感覚で、モダンで都会的な建物として見ることができたら面白いのではないでしょうか。
おうちのはなし027より
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